遺産相続と相続税

はじめに

遺産相続とは

遺産相続とは、亡くなった人(被相続人)が遺した財産・権利・義務を相続人が継承することをいいます。

民法では、亡くなった人を「被相続人」、財産(遺産)を相続する人を「相続人」と言い、被相続人が死亡した時点で相続は開始されると定めています。(民法(以下「法」)882条)

承継される財産には、不動産や預貯金などのプラスの財産だけではなく、負債や借金といったマイナスの財産も含まれます。

目次

1. 法定相続人とは

2. 遺産相続の順位と割合

    2-1. 遺産相続の相続順位と範囲

    2-2. 法定相続の割合

2-3. 法定相続よりも遺言書の内容が優先される

    2-4. 法定相続人でも相続できない2つのケース

3. 遺産相続・相続放棄する際の3つの選択法

    3-1. 単純承認

    3-2. 限定承認

      3-3. 相続放棄

4. 代襲相続とは

    4-1. 代襲相続される範囲

   4-2. 代襲相続される3つのケース

   4-3. 相続放棄した場合、代襲相続はされない

   4-4. 代襲相続人の法定相続分

   4-5. 代襲相続させない内容の遺言書に効力はあるか?

      4-6. 代襲相続、相続税の基礎控除額や非課税枠が増えるメリット

    4-7. 代襲相続の相続税の2割増し加算

    4-8. なぜ2割増加算という制度があるのか。主な2つの理由

    4-9. 「孫」が相続する場合、2割増加算はややこしい

    4-10. 疎遠になっている人が代襲相続人になった場合は手続きが面倒になることも

5.相続の対象となるもの

    5-1. プラスの財産

    5-2. マイナスの財産

6.相続の対象外となるもの

7.「みなし相続財産」について

    7-1. みなし相続財産の主な3つの種類

    7-2. その他のみなし相続財産に含まれるもの

    7-3  みなし相続財産について知っておくべきこと

8.相続税について

     8-1. 基礎控除とは

     8-2. 基礎控除額の計算式

9.遺産相続の手続きの流れと、その期限

9-1. 7日以内にすべき手続き

9-2. 年金受給の停止手続き

9-3. 14日以内にすべき手続き

  9-4. 世帯主の変更届の提出

9-5.公共料金や各種サービスの変更、解約の手続き

9-6. 遺族年金の手続き

9-7. 生命保険の請求手続き

9-8. 2~3カ月以内にすべき手続き

   9-9. 遺言書の検認

   9-10.相続人の調査

9-11. 遺産分割協議の開始

10.故人の確定申告について(準確定申告)

   10-1.準確定申告が必要なケース

   10-2.準確定申告が不要なケース

   10-3.準確定申告は不要だが、申告することで還付金が戻ってくるケース

   10-4. 準確定申告が2回分必要となる場合もある

10-5. 準確定申告の手順

   10-6.準確定申告の必要書類

   10-7.準確定申告の書き方

   10-8.準確定申告は電子申告(e-Tax)もできる!

   10-9.電子申告をする際に必ず揃えておくものは3つ

   10-10.電子申告する際に、必要な書類

11.相続税の申告と納税

   11-1.相続税の申告が必要なケース

   11-2.遺産分割協議を行う

   11-3.遺産分割協議書の作成をする

12. 遺留分侵害額請求とは

   12-1. 遺留分権利者(遺留分の権利を持っている相続人)

   12-2. 遺留分の割合

   12-3. 遺留分を計算する時に必要な財産額の計算式

   12-4.遺留分の計算式

   12-5.遺留分計算の具体的なケース

   12-6.代襲相続の遺留分はどうなる?

   12-7.遺留分侵害額請求は早めに行いましょう

13.葬祭費・埋葬料の申請手続き

14.高額医療費の還付の申請手続き

15. 生命保険の請求

16. 相続登記(令和6年4月から義務化)

17. 遺族年金の受給申請

18. 未支給年金の請求

19. 知っておくと便利な制度と免税措置

   19-1. 法定相続情報証明制度

   19-2. 相続土地国庫帰属制度

   19-3. 相続登記の登録免許税の免税措置

1. 法定相続人とは

法定相続人とは民法で「相続のさいに財産を相続する権利のある人」と認められている相続人の人を言います。法定相続人になるのは、被相続人の配偶者と血縁者のみで、配偶者は常に相続人となります。

相続人とは「実際、財産を受け取る人」のことをいい、法定相続人とは別に、「遺言書によって財産を受け取る人」のことを受遺者といいます。

2. 遺産相続の順位と割合

人が亡くなると、相続について考えなければなりませんが、相続人となる範囲や、その優先順位などを正確に把握している人は殆どいないでしょう。

また、相続人となる人の範囲や優先順位、割合は民法で定められており、遺言書などによって財産の分け方を決められていない限りは、民法で定められた範囲の相続人以外は相続する権利は認められません。

ここでは遺産相続の順位とそれぞれの割合をお伝えしていきます。

2-1.遺産相続の相続順位と範囲

前途でもお伝えしたように、配偶者は常に相続人となります。

配偶者以外の相続人には「相続順位」という順位が定められており、順位の高い相続人から「第一順位」「第二順位」「第三順位」となっています。また、順位は「第三順位」までとなり、第四順位以下はありません。

以下が法定相続の順位と範囲になります。

・第一順位=子ども、もしくは孫やひ孫

・第二順位=父母、もしくは祖父母

・第三順位=兄弟姉妹、もしくは甥・姪

もし、第一順位がいなければ、第二順位に、第二順位もいなければ第三順位にとなります。

次に法定相続の割合を見ていきましょう。

2-2. 法定相続の割合

まず、相続する割合も民法で定められており、これを「法定相続分」といいます。法定相続の割合は相続人の順位と人数によって変わります。

また、配偶者の相続分はどの順位の相続人かによって異なってきます。

法定相続分の割合は以下の通りです

・配偶者のみ=100%

・配偶者と子ども=配偶者1/2 子ども1/2

・配偶者と親=配偶者2/3 親1/3

・配偶者と兄弟姉妹=配偶者3/4  兄弟姉妹1/4

配偶者以外の順位者が相続人になった場合は、相続の割合は人数によって変動します。例えば、相続人が配偶者と子ども二人だった場合の相続の割合は、配偶者1/2と子ども1/2を二人で分けるので1人当たり1/4となります。

なお、養子や婚外子・内縁者との子は認知している場合に限り、法定相続人となれます。ただし、養子の場合は相続税法で認められる養子の人数が定められています。実子がいない場合、法定相続人として養子は2人まで認められますが、実子がいた場合は1人までとなります。因みに、婚外子などの場合あくまでも法定相続人とされるのは、認知されている子どもに限ってであり、例えば内縁の妻(夫)は法定相続人に含まれません。

2-3. 法定相続よりも遺言書の内容が優先される

相続の方法には大きく二つに分かれます。一つは遺言書がない場合の「法定相続」もう一つは遺言書があった場合の「指定相続」です。

「法定相続」か「指定相続」かによって相続人の範囲や相続分が異なることがあります。

法律では、遺言書があった場合その遺言内容が法定相続より優先されるとされています。原則として遺言書の内容通りに遺産相続されることになりますが、相続人全員の合意があれば、遺言以外での遺産分割も可能です。

逆に遺言書がない場合、遺産相続の順位と割合は民法で決まってはいますが、法定相続人は「遺産分割協議」を行うことで遺産相続の割合を自由に決めることができます。そして、それは法定相続分より優先されます。

2-4. 法定相続人でも相続できない2つのケース

法定相続人であれば誰でも財産を相続できる。ということはなく、例え法定相続人であったとしても財産を相続することができないケースが大きく分けて2つあります。

ケース①「相続欠格」

これは被相続人を殺害した、あるいは殺害を企てようとした。または遺言書を破棄や隠匿しようとしたなど、民法で定められた「重大な非行」を行った場合、ただちに相続する権利を失う制度のことです。

「相続欠格」は被相続人の意思は関係ありませんし、家庭裁判所に申し立てる必要もありません。

しかし「相続欠格」に該当するかどうかは、あくまでも被相続人に対してであり、例えば子が被相続人である父親を殺害した場合、父親の相続においては子は「相続欠格」になり相続権は失われますが、母親の相続に関しては「相続欠格」になならないため、子は相続人として母親の遺産を受け取ることが可能となります。

なお、「相続欠格」になると「遺留分」も認められませんし、例え遺言書に名前が記載されていたとしても「相続欠格」であれば、遺産を想像することはできません。

ただし、「相続欠格」になった者の子は代襲相続ができますし、「遺留分」も認められます。

ケース②「相続廃除」

これは被相続人に対し、「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」があった場合、被相続人の意思で生前であれば、自ら家庭裁判所に「相続廃除」の申し立てを行い、相続の権利を剥奪することができる制度のことです。

遺言によって「相続廃除」の意思を記載していた場合は、遺言執行者が家庭裁判所に「相続廃除」の申し立てを行います。

ただし、「相続廃除」できるのは法律上認められてる「遺留分」の権利がある相続人のみとなります。なぜ遺留分がある相続人に限定されているかというと、その他の相続人は遺言によって相続をなしにすることができるからです。

3.遺産相続・相続放棄する際の3つの選択法

相続には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択方法があります。

相続人は相続開始、または自分が相続人であると知った日から3か月以内に、この3つの中から選ばなくてはいけません。

それぞれの内容について確認していきましょう。

3-1. 単純承認

単純承認とは、故人の不動産などの所有権の権利から借金といった負債まで全ての財産を相続することをいいます。相続の中で最も一般的とされているのがこの「単純承認」です。必要な手続きはなく、3か月以内に「限定承認」「相続放棄」がされなければ、自動的に「単純承認」されたとみなされます。

3-2.限定承認

限定承認とは、相続人が故人のプラスの財産の限度として、借金などのマイナスの財産を相続することをいいます。故人のプラスの財産と負債がどのくらいあるか不明だった場合、住居などどうしても手放したくない財産があれば、限定承認の制度を使うと良いでしょう。負債の方が少なければ、プラスの財産は手元に残りますし、負債の方が多くてもプラスの財産を限度として負債分は相続となるので、プラマイゼロとなります。

ただし、限定承認は必ず相続人全員で家庭裁判所に申し立てを行わなくてはならず、3か月以内と期限も決められています。3か月過ぎると自動的に「単純承認」したとみなされるので期限には注意してください。

他にも手続きが複雑なため、全てが完了するまでに1〜2年かかることもあります。

また、手続きが終わる前に遺産を処分してしまうと、自動的に「単純承認」されたとみなされるため、限定承認や相続放棄が一切できなくなります。現状、その辺りの原因もあり、この「限定承認」は殆ど利用されていません。

3-3.相続放棄

相続放棄とは読んで字のごとく、相続人が故人の負債も含む全ての財産にたいする権利・義務を放棄するということです。あきらかに負債が多い場合や、相続争いに巻き込まれたくない、特定の相続人に財産を相続させたい場合などにこの「相続放棄」を行うと良いでしょう。

相続放棄の手続きも、相続開始を知った日から3か月以内と期限が決められています。相続放棄の申述先は、故人が最後に暮らしていた地域の家庭裁判所です。相続放棄に必要な書類は、誰が申述するかで異なりますが誰が申述人であろうと、必要な書類は次のものになります。

①相続放棄の申述書

②故人の住民票除票もしくは戸籍附票

③申述人の戸籍謄本

その他、申述人によって必要な書類が異なります。詳しくは下記で確認してください

相続放棄の申述書に必要な書類

ただし、相続放棄ができないケースもあります。

提出書類などに不備があり、それを修正し提出し直さなければ相続放棄は受理されません。また、前途でもお伝えしたように3か月以内という期限を過ぎても受理されませんので、注意が必要です。

そしてここで一番、注意しなければならないのは「単純承認」と認められた場合です。これは例えば、「相続人が相続財産の全て、または一部を処分した場合」「相続人が相続財産の全て、または一部を隠匿、消費した場合」です。このようなケースが行われた場合、「単純承認」したと法律上みなされ相続放棄はできなくなります。

4.代襲相続とは

代襲相続とは、本来親の遺産を相続するはずの子や兄弟姉妹が既に亡くなっていた場合、亡くなった人の子(親から見て、孫や甥・姪)が代わって遺産を相続する制度のことをいいます。

4-1.代襲相続される範囲

まず、被相続人の配偶者(夫・妻)がいる場合、配偶者は常に相続人となります。

①亡くなった人の直系卑属(被相続人から見て、孫やひ孫)

直系卑属とは自分より後の世代のことをいい、子や孫、ひ孫といった直通する系統の親族のことです。例えば、被相続人の子が既に他界している場合は孫に、孫が他界していたらひ孫に、ひ孫が他界していたら玄孫に・・・と直系卑属がいる限り続きます。

②亡くなった人の甥・姪

相続人となるのが兄弟姉妹で、その兄弟姉妹も既に他界していた場合、甥・姪が代襲相続人となります。

しかし、直系卑属と違うのは甥・姪も他界していたら代襲相続はそこで終わりとなります。甥・姪の子どもは代襲相続人に含まれません。

③胎児にも代襲相続

相続では胎児は出生してるものとみなされるため、代襲相続に含まれます。簡単に言うと、他界した相続人の子が、お腹の中にいた場合、その子は代襲相続人となります。

ただし、残念ながら死産となった場合は代襲相続人にはなりません。

④亡くなった人が養子縁組した子の子ども

被相続人が養子縁組していた場合、養子の子(孫)は出生の時期によって代襲相続されるか変わります。

養子縁組する前に生まれた子は代襲相続されませんが、養子縁組後に生まれた子は代襲相続します。

例えば、相続人になるはずの子(養子)が既に他界しており、その子には男の子二人の子どもがいたとします。長男は養子縁組する前に生まれた子、次男は養子縁組した後に生まれた子。この場合、長男は代襲相続されませんが、養子縁組した後に生まれた次男は代襲相続されることになります。

4-2.代襲相続される3つのケース

代襲相続されるのは、よく見られる範囲として被相続人から見て孫やひ孫、甥や姪にあたる者になりますが、代襲相続される主な3つのケースがあります。

それぞれ詳しくみていきましょう。

①相続開始以前に死亡しているケース

相続するはずの者、被相続人から見て実子(養子)が相続前に他界していた場合、被相続人から見て孫といった直系卑属が代襲相続人となり相続できる。

これは、実子の子はもちろん、「養子縁組の後に生まれた子(孫)」「実子と前妻との子ども」や「実子との婚外子(愛人との子)」なども代襲相続の対象に含まれます。

②相続人が相続欠格しているケース

・故意に、被相続人や相続人を殺害もしくは、手助けなどした場合。

・被相続人や相続人に対し、詐欺や強迫によって、自分の有利になるよう遺言書を 撤回、根回しまたは変更などさせた場合。

・遺言書を破棄・偽造・隠匿など相続に関する侵害を犯した場合。

これらの不当な干渉を行った場合、家庭裁判所に申し立てしなくても、「相続欠格」とみなされ、法律上ただちに相続権を失います。

しかし本来、相続人となる者が「相続欠格」されていても、その者の子は代襲相続されます。

③相続人が相続廃除されているケース

被相続人に対し相続人が、虐待や侮辱行為を行っていた場合。

・被相続人や、被相続人の家族に対し継続的な暴力行為や財産の浪費などの著しい非行を行っていた場合。

これらの場合、被相続人が家庭裁判所に申し立てをして、審判や調停によって認められれば、その相続人は相続権を失います。しかし、ほんらい、相続人となる者が「相続廃除」されていても、代襲相続はされます。

4-3.相続放棄した場合、代襲相続はされない

相続人が「相続放棄」している場合は、代襲相続はされません。

被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全て放棄することで、相続人としての存在自体がなくなり、もともとあった相続権もなくなるためです。

4-4.代襲相続人の法定相続分

結論からいいますと、代襲相続人の相続分は本来、相続するはずだった人と同じです。

例えば、被相続人には配偶者である妻と長男(他界)と次男の2人の子がいますが、長男は既に他界しており長男には二人の子がいます。この場合、長男の2人の子が代襲相続人になります。

代襲相続人となる二人の子の相続分は、長男から引き継がれますので、相続の割合は・・・

妻 1/2 

次男 1/4

代襲相続人の二人は、長男の相続分1/4を二人で割るので1/8ずつとなります。

4-5.代襲相続させない内容の遺言書に効力はあるか?

遺言書に「代襲相続人である孫に代襲相続させたくない」と書き遺すことは勿論、可能ですが、前途でもお伝えしたように代襲相続人が孫やひ孫だった場合、遺留分があり、遺留分は限られた相続人に対し、遺言でも奪うことのできない法律上、確保された最低限度の財産ですので、遺留分の点では全く相続させない。ということは不可能です。

4-6.代襲相続、相続税の基礎控除額や非課税枠が増えるメリット

代襲相続がおこった場合、法定相続人が変わり人数が増える可能性があります。

例えば本来は法定相続人が「配偶者と子ども」の二人のはずが、代襲相続人となると孫が二人いれば「配偶者と代襲相続人の孫2人」となり、法定相続人は三人に増えることになります。

法定相続人が増えるということは、その分の基礎控除額や非課税枠が増えます。何故なら、法定相続人の人数によって控除額などは計算されるためです。

それぞれの計算式をみていきましょう。

・相続税の基礎控除額の計算式

【3.000万円+(600万円×法定相続人の人数】=基礎控除額

・生命保険金・死亡退職金の非課税枠の計算式

【500万円×法定相続人の人数】=非課税枠

計算式を見ての通り、基礎控除にも生命保険・死亡退職金に関しても全て法定相続人の人数が含まれています。法定相続人が増えれば、それだけ控除額や非課税枠は増えますが、ここで注意しなければならないのは、甥や姪が代襲相続人となる場合は、相続税が2割加算の対象になるということです。

4-7.代襲相続の相続税の2割増し加算

①2割増加算とは?その対象者と対象外の人

2割増加算とは、配偶者や子ども、親以外の人が遺産を相続(遺贈)した場合、2割加算した金額の相続税を支払わなくてはならない制度のことです。

どういった方が2割加算の対象かというと

対象者

・兄弟姉妹や孫

・内縁者や友人、知人といった血縁者でない者

【対象外 とても近い身内】

・被相続人の配偶者

・被相続人の子や親といった一親等と、その代襲相続人

それぞれ覚えるより、対象外だけ覚える方が早いし楽です。

4-8. なぜ2割増加算という制度があるのか。主な2つの理由

なぜ、相続税の2割増加算という制度があるかというと、主に2つの理由があります。

①相続税の負担を公平にするため

これは例えば、相続は一般的に親から子へ、子から孫へとなりますが、相続税の課税を一世代回避できる、親から孫へ、孫を養子にする場合などは相続税を2割増にすることで、相続税の負担を公平にすることとなります。

②今後の生活面に大きな影響はないから

被相続人が亡くなった場合、配偶者や子らは、今後の生活面に大きな影響を受ける可能性がある一方で、兄弟姉妹、甥や姪ましてや友人に関しては、生活面においてはさほど大きな影響を受けるとは考えにくく、ようは「2割増で徴収しても影響はないでしょう」という、少々強引ともいえる理由です。

4-9.「孫」が相続する場合、2割増加算はややこしい

さて、相続税の2割増加算ですが、これが孫においては少々ややこしくなります。

結論から言いますと、孫が代襲相続人であれば、相続税の2割増加算はありません。

まず、孫が相続したら相続税は2割増となりますが、その孫が代襲相続人だった場合は2割増の対象者から除外されます。

何故かというと、代襲相続とは本来相続するはずの者に代わって相続するため、相続権も継承されるためです。

本来相続すはずの子が相続開始前に他界していたら、孫が代襲相続することになり、相続権も本来相続するはずだった子のものが継承されるので、2割増の対象外となります。

ただし、孫を養子にしている場合に限り相続税は2割増となるので注意が必要です。なお、孫以外が養子になってる場合は相続税の2割増はありません。

4-10. 疎遠になっている人が代襲相続人になった場合は手続きなどが面倒になることも

代襲相続で最も面倒なのは、代襲相続人となった人と疎遠になっている場合です。

普段から連絡を取り合っていたり、所在や連絡先が分かっていれば、さほど問題はないでしょう。

しかし、例えば被相続人の兄弟の子ども、すなわち甥や姪が代襲相続人となっている場合、長い間疎遠となっているケースが多くなります。

代襲相続人と連絡がつかないからといって、その人を無視して相続手続きを行うことは法律上できません。また、相続手続きにはそれぞれ期限が設けられているものもあるため、なるべく早めに手続きを進めなくてはなりません。

このような事態にならないためにも、相続人あるいは代襲相続人になりうる親族とは事前に連絡先を交換しておくようにしましょう。

   

5.相続の対象となるもの

5-1. プラスの財産

・不動産(土地、家屋、建物、借地・借家権、農地、山林など)

・財産(金融資産、現金、預貯金、銀行口座、株式、債権、投資ファンドなど)

・動産(自動車、家財、絵画骨董品、貴金属、船舶、コレクション品など)

・知的財産(著作権、商標権、特許権、所有権など)

・事業資産(機械器具、農耕機械など事業の資産や株式も相続の対象となります)

5-2. マイナスの財産

・借金(住宅や車のローン、個人ローン、クレジットの未払い残高など)

・未納税金(所得税、住民税、固定資産税、国民健康保険など延滞税等の未納分)

・未払金(家賃、水道光熱費、通信費、医療費などの未払い分)

・保証債務(連帯保証人)

・その他(葬式費用、弁護士や手続き費用など)

6.相続の対象外となるもの

 ①被相続人に一身専属的な権利義務

  

(資格や技能、年金請求権、扶養義務、親権など)

 ②配偶者または共同名義の財産

 

 (財産が共同名義で持たれている場合、一方の所有者が亡くなった場合でも、も  う一方の所有者が財産を保持し続けることができます。これは一般的に配偶者  間の共有財産に該当します。

 ③生命保険

 

 亡くなった人の生命保険の給付金は通常、受取人が決まっており、受取人固有  の財産となるため、相続の対象外です。ただし、「みなし財産」として扱われ  るため、相続税が課せられます。

 ④死亡退職金

 

 死亡退職金は、在職中に亡くなった労働者の遺族に支払われるもので、生命保  険同様、受取人が決まってる場合は相続の対象外となりますが、こちらも「み  なし財産」と扱われるため相続税が課せられるため注意が必要です。

 ⑤香典・弔慰金

  

香典は喪主である人が受取人となることが一般的であり、費用は葬式費用に充  てられると考えられているため、相続の対象外となります。

  弔慰金は自治体や勤務先から、遺族に対してお悔やみ、慰めのために贈られる  ものと考えられており、一般的には受取人が決まっているため相続の対象外と  なります。

 ⑥祭祀財産

  

祭祀財産とは神仏や先祖を祀るための財産のことをいい、神棚、仏壇仏具、墓  石などがあります。祭祀財産は特定の人が受け継ぐことになるので相続の対象  にはならない財産です。

7. 「みなし相続財産」について

みなし相続財産とは、民法上では相続財産に含まれませんが、税法上では相続財産とみなされるものをいいます。代表的なものとして、生命保険、死亡退職金等があげられます。これらは被相続人がもともと所有していたものではなく、被相続人が亡くなったことをきっかけに受け取る財産のため、税法上では相続財産とみなされます。

7-1. みなし相続財産の主な3つの種類

①生命(死亡)保険

被相続人の死亡により保険会社から支払われ受け取る保険金はみなし相続財産として相続税が課せられます。ただし、相続税は被相続人が保険料の負担をしていた場合にかぎります。保険料の負担が被相続人ではない場合は

「所得税」や「住民税」が課せられ、保険料の負担、被保険者、受取人がそれぞれ別の場合は「贈与税」が課せられるので注意が必要です。

②死亡退職金

被相続人の死亡によって、勤務先から支払われる「死亡退職金」もみなし相続財産とされます。ただし条件があり、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定されたものにかぎり、死亡後3年経過後は「所得税」が課せられます。

③生前贈与財産

条件によっては、みなし相続財産となり、相続税が課せられます。

・被相続人の死亡前(7年以内に贈与により取得した財産)

※令和5年度(2023年)の税制改正により、生前贈与の加算適用期間が3年から7年に変更になりました。令和6年(2024年)1月1日の贈与からの適用となります

・相続時精算課税

この制度は累計2500万円まで贈与税が非課税となる制度です。また同一の父母もしくは祖父母からの贈与は累計2500万円まで何回でも控除することができ、相続時精算課税は選択制でもあるので、父からの贈与は選択するが、母からのはしないなどと選ぶことができますが、一度選択したら取り消すことはできません。またこの制度は誰でも利用できるわけではなく、次の条件が設けられています。

【贈与者(贈与する人)】贈与した年の1月1日時点で、60歳以上の父母もしくは祖父母であること

【受贈者(贈与を受けた人)】贈与者の直系卑属(子や孫)であり、贈与を受けた年の1月1日に18歳以上であること。

7-2. その他のみなし相続財産に含まれるもの

①定期金

被相続人が掛金を支払い、相続人が受取人の場合の個人年金などです。

②信託受益権

信託銀行などに遺産を預け、運用、管理を任せることを「信託」といい、遺言によって信託からの利益を受ける場合、相続税の対象となります。

③債務の免除

遺言により免除された債務もみなし相続財産として扱われます。例えば、亡くなった被相続人に300万円借りていたが、遺言によって免除された場合、相続税は免除された300万円に対して課税されます。

④公共法人から受け取る利益

一定の法人に対して遺贈が行われた場合、その法人と特別な関係がある物が、特別な利益を受けた場合において、その利益に相続税が課税されます。

7-3.みなし相続財産について知っておくべきこと

①相続放棄しても受け取れる

みなし財産は厳密には相続財産ではなく、相続がきっかけで取得する財産のため、相続放棄していても受取人になっていれば受け取ることができます。ただし、相続放棄してる場合は「非課税枠」は使えません。

②一定額まで非課税

「生命保険」と「死亡退職金」においては【500万円☓法定相続人の数】という非課税枠があります。例えば、配偶者と子の二人で被相続人にかけていた生命保険金を受け取る場合、500万☓2の1000万円までが非課税枠となります。また、法定相続人の数には、相続放棄した人も含まれます。ただし、相続人ではない人、もしくは相続放棄した人が取得する場合は非課税枠の対象外となります。

③遺産分割の対象ではない

みなし相続財産は受取人が決まっており、相続人固有の財産となるため、遺産分割協議の対象にはなりません。

8.相続税について

相続税は、財産を相続した人にかかる税金ですが、必ずかかるわけではありません。具体的には借金や葬式費用、非課税のものなどを差し引き、その差し引いた額が基礎控除額を上回った場合、その上回った金額分に相続税がかかります。

8-1. 基礎控除とは・・・

基礎控除とは相続税の算出に用いられる非課税枠のことで、相続した遺産総額から差し引ける金額のことをいいます。

遺産総額が「基礎控除額」以下の場合は、相続税の申告や納税は不要です。また基礎控除額は、誰でも使えるので、まずは「基礎控除額がいくらになるか?」計算すると良いでしょう。

8-2. 基礎控除額の計算式

3.000万円+600万円×法定相続人の数】具体的にいうと例えば、法定相続人が妻と子の2人だったとします。この場合、基礎控除額は4.200万円となります。つまり、遺産総額が4.200万円以下なら相続税の申告、納付は不要となります。一方で、遺産総額が6.000万円だった場合、6.000万円-4.200万円=1.800万円が相続税の課税対象となるため、申告と納付が必要となります。また、法定相続人が増えるほど基礎控除額は増え、相続税は減少します。

9.遺産相続の手続きの流れとその期限

相続に関する手続きは、多岐に渡りますが中には気持ちの整理がつかないまま、手続きを行わなければならない手続きもあります。また、時間と労力もかかるものが多くあり、更に殆どが期限が定められているものばかりです。冷静かつスムーズに手続きを行えるように、先ずは「どの手続きを」「いつまでに」「どのような流れで」行うか把握することが重要となるでしょう。

9-1.7日以内にすべき手続き

 ①死亡診断書を受け取る

病院で発行してもらいます。死亡診断書がないと火葬、埋葬ができません。死亡診断書は生命保険の請求やその後の手続きに必要となるので、事前に数枚コピーして保管しておきましょう。

 ②死亡届の提出

死亡診断書と一体になっており、医師から渡されます。必要事項に記入したら、市区町村役場に提出します。死亡届もその後の手続きに必要となるので、コピーしておきましょう。

 ③火葬許可証の取得

火葬許可申請書を市区町村役場に提出し、火葬許可証を発行してもらいます。火葬を終えた後に、火葬許可証に火葬済印が押されますが、これが「埋葬許可書」となり墓地などに提出するものとなります。

9-2. 年金受給の停止手続き

国民年金、厚生年金を受給していた場合は「年金受給権者死亡届」を年金事務所または年金相談センターに提出します。

厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内となります。

年金受給停止の手続きには「年金証書」「死亡診断書または火葬許可証」「戸籍謄本または除籍謄本」「故人と年金請求者の住民票の写し」が必要となります。

なお、日本年金機構に個人番号「マイナンバー」が収録されていれば、届出を省略できます。

9-3.14日以内にすべき手続き

【健康保険証・介護保険証の返却と資格喪失届の提出】

国民健康保険や75歳以上の場合は後期高齢者医療被保険者証、介護被保険者証は14日以内に市区町村役場に資格喪失届を提出、保険証を返却する必要があります。

なお、職場の健康保険に加入している方は、基本的に会社側が手続きを行うので勤務先の指示に従ってください。

9-4. 世帯主の変更届の提出

故人が世帯主であった場合、世帯主変更届を市区町村役場に提出する必要があります。

残された世帯員が一人であったり、親権者と15歳未満の子どもである場合は、次の世帯主が明確であるため提出の必要がありません。

9-5.公共料金や各種サービスの変更、解約の手続き

これらの手続きに期限はありませんが、余分な出費を抑えるためにも特に有料なものは早めに解約手続きをおこないましょう。

以下のものは最低限確認しておきましょう。

・公共料金・携帯電話、インターネット回線・ウェブサービス・固定電話・NHK・クレッジットカード・株式・運転免許証・パスポート・ゴルフ会員権

9-6. 遺族年金の手続き

遺族年金の時効は5年で、それまでに手続きを行えば良いのですが、遺族年金の受給決定から受け取りまで4カ月程度かかるので、残されたご家族のこれからの生活のためにも、早めの手続きをおすすめします。

9-7. 生命保険の請求手続き

こちらも請求期限は3年ではありますが、葬儀代や今後の生活のためにもなるべく早めに手続きをすませた方が良いでしょう。

9-8. 2~3カ月以内にすべき手続き

【遺言書の有無の確認】

遺産分割において遺言書の内容は何より優先され、大きな影響を与えます。

遺言書があればその内容に従って遺産を分けますが、ない場合は相続人全員で分け方を決めなければならないため、早めに遺言書の有無の確認をしてください

9-9. 遺言書の検認

「検認」とは遺言書の存在を確認することです。

公正証書遺言以外の遺言書は家庭裁判所で検認手続きをする必要があります。

家庭裁判所が出席した相続人の前で遺言書を開封し、内容の確認をするものであり、内容が有効か確認するものではありません。

公正証書遺言は、公正役場に原本が保管されているため、偽造などのおそれがないため家庭裁判所での検認の必要がありません。

なお、公正証書遺言以外の遺言書を発見した場合は、決して勝手に開封してはいけません。違法行為となり5万円以下の過料が課せられることがあります。

ただし、遺言書の内容において効力がなくなることはありません。

9-10.相続人の調査

遺言書がない場合は、法定相続人全員を把握し、相続人全員で話し合い決めなくてはなりません。

そのためには故人の全ての戸籍謄本や除籍謄本などを確認する必要があります。何故なら、稀にではありますが、戸籍謄本などを把握することで、相続人が知らなかった、認知している子、前妻との子、養子縁組してる子などが判明することがあるからです。

これらが後から発覚すると全てやり直しすることになるので、相続手続きを行う前に必ず準備しておくことが大切です。

9-11. 遺産分割協議の開始

「誰が」「どの財産を」「どのようにもらうか」を決める話し合いのことを【遺産分割協議】といいます。

遺産分割の方法には「現物分割」「共有分割」「換価分割」「代償分割」の4つがあります。

①「現物分割」

これが最も基本的な遺産分割方法とされており、相続財産を現物のまま分配する方法です。例えば「土地は妻、車は長男、株式は長女」といった分配がこれにあたります。

②「共有分割」

遺産の一部あるいは全てを、複数の相続人で共有する方法です。例えば、自宅の不動産を長男と次男で1/2の割合で相続するといった分配がこれにあたります。しかし、共有分割は後々、家族間で揉めることが多いため、可能であれば避けた方良いでしょう

③「換価分割」

不動産などの財産を売却し、現金化してから相続人の間で分配する方法です。例えば、子ども2人が相続人で、不動産を4.000万円で売却した場合、2.000万円ずつ分配し、受け取るのが「換価分割」にあたります。

④「代償分割」

代償分割とは、特定の相続人が財産を現物で取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払うことで調整する遺産分割の方法です。例えば、2人の兄妹が相続人だった場合、3.000万円の不動産を兄、1.000万円の預貯金を妹が相続したら、2.000万円の大きな差が生じます。そのような場合に、兄が妹に1.000万円の代償金を支払うことで平等になるということが代償分割の方法です。相続財産が土地、建物など分割しにくい場合、円滑に進めるためにもおすすめです。

10. 故人の確定申告について(準確定申告)

【準確定申告(相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内!!)】

故人に所得があった場合、亡くなった年の確定申告を自分で行うことができません。そのため、故人の代わりに確定申告することを【準確定申告】といいます。申告が必要なのは次のケースです。

10-1.準確定申告が必要なケース

・個人事業所得、不動産賃貸所得がある場合

・給与所得が2.000万円を超えてた場合

・複数の企業から給料がある場合

※ただし、副業の所得が20万円以下なら申告の必要はありません

・公的年金の収入が400万円を超える場合(国民年金、厚生年金、老齢年金、恩給など)

※400万円以上でも「公的年金に係る雑所得以外の所得」が20万円を超える場合も申告が必要です。

10-2.準確定申告が不要なケース

・会社で年末調整されている

・公的年金が一年間で400万円以下

・副業による収入が20万円以下

・相続人が相続放棄した場合(ただし、相続人が複数名いる場合はその中の一人もしくは複数人が連名で申告しなければなりません)

10-3.準確定申告は不要だが、申告することで還付金が戻ってくるケース

①医療費が高額だった場合(セルフメディケーションを含む)

故人の亡くなった年の医療費が10万円を超えた場合、確定申告をすることで医療費控除され、還付金が戻ってくることがあります。申請には医療明細書やレシートが必要になるので、一つにまとめて保管しておくようにしましょう。

②源泉徴収額を納めすぎている場合

年末調整を受ける前に、亡くなってしまった場合は、源泉徴収で税金を多く納めてる可能性があるため、申告をすることで税金か還付されます。

③配偶者控除、扶養者控除などの控除を受ける場合

故人に配偶者や扶養者がいる場合や、自然災害、盗難により故人の資産に損害(雑損控除)があった場合、また生前に一定額の寄付をしていた場合「特定寄付金」という所得税の寄付金控除があります。ただし、寄付先が寄付金控除の対象か確認する必要があります。

10-4. 準確定申告が2回分必要となる場合もある

準確定申告は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」が期限とされています。

例えば、12月20日に亡くなった場合の期限は4月20日となり、確定申告の期限(3月15日)を過ぎますが、準確定申告の期限が優先となるため問題ありません。

しかし、相続開始の日付けによっては、準確定申告が2回分必要になることもあるので注意が必要です。

(注)確定申告をしなければならない人が翌年の1月1日から確定申告期限(原則として翌年3月15日)までの間に確定申告書を提出しないで死亡した場合、この場合の準確定申告の期限は、前年分、本年分とも相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。(国税庁ホームページ:No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告))

具体的には、令和5年分の確定申告書を提出しないまま、翌年令和6年の2月15日に亡くなった場合、令和5年度の所得については既に確定されているので令和5年度分の準確定申告もする必要があります。

その場合は令和5年分と令和6年1月1日〜2月15日(死亡日)までの2回分の準確定申告を期限の6月15日までにまとめて申告します。なお、期限までに準確定申告を行わなかった場合は無申告加算税と延滞税を支払うことになるので、必ず期限は守りましょう。

10-5. 準確定申告の手順

準確定申告も、通常の確定申告のやり方とほぼ同じです。大きく違うのは、期限が「相続の開始を知った日の翌日から4か月以内」ということと、故人に代わって相続人が必要な書類の準備と申告の提出を行うという点です。

①相続人全員に連絡をする・・・

準確定申告は包括受遺者を含めた相続人全員で手続きを行う必要があるので、まずは「準確定申告が必要である」ことを相続人全員に伝えましょう。

②代表者を決める・・・

相続人が複数人いる場合は、「確定申告付表」に全ての相続人の署名が必要となります。それぞれの相続人が別々に申告することも可能ですが、申告内容は他の相続人にも伝えなければならず、また時間もかかり混乱の恐れもあることから、代表者を決めて連署して提出する方法が得策でしょう。

10-6.準確定申告の必要書類

①確定申告書(A)もしくは(B)・・

準確定申告書も通常の確定申告と同じで、2種類あります。どちらが必要かは被相続人の職業や収入によって違います。

【申告書(A)】被相続人が給与のみ(会社員、パート等)、もしくは年金のみの所得だった場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r02/01.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

【申告書(B)】被相続人が個人事業所得、不動産所得やその他、給与以外での所得があった場合。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r02/02.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

②被相続人の所得及び復興特別所得税の確定申告書付表(相続人が2人以上の場合)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/fuhyo/f01.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

③被相続人の給与所得の源泉徴収票・・

勤務先に連絡して発行してもらう

④被相続人の公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)の源泉徴収票・・

日本年金機構、年金事務所や年金相談センターの窓口に問い合わせて発行してもらう(注)年金受給停止の手続きをしてから、源泉徴収票が届くまで2〜3か月かかるとされているため、相続開始とともに年金受給停止の手続きを行いましょう。

※「年金受給者死亡届」の提出期限は国民年金は死亡した日から14日以内、厚生年金は10日以内です。また日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は不要です。

⑤被相続人の医療費の領収書・・

医療費控除の申告をする時に必要となります(※年間10万円以上かかった場合)

⑥被相続人の保険等の控除証明書・・

生命保険、社会保険、地震保険、小規模企業共済等掛金が所得控除の対象です 。

なお、保険会社によって発行時期が異なるので、余裕をもって早めに保険会社に確認し発行してもらいましょう。

⑦委任状・

還付金があり、かつ相続人の代表者が一括で受け取る際は、他の相続人による委任状の提出が必要となります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/fuhyo/f01-3.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

⑧申告者の本人確認書類・・

【マイナンバーカードがある場合】マイナンバーカードの両面のコピー

【マイナンバーカードがない場合】

①マイナンバーが記載された住民票などの写し、あるいは通知カードのいずれか1点。

②身分が確認できる、運転免許証、公的医療保険の被保険者証、身体障害者手帳、在留カードのいずれか1点。

10-7.準確定申告書の書き方

①相続人や包括受遺者が1人の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/014.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

②相続人や包括受遺者が2人以上の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/014.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

10-8.準確定申告は電子申告(e-Tax)もできる!

2020年(令和2年分)から、準確定申告も電子申告(e-Tax)ができるようになりました。それにより税務署などに足を運ぶ手間が省け、自宅で手続きが行えるようになりました。また、電子申告で手続きをすることで、被相続人が事業所得、不動産所得があり、事前に青色申告の承認を受けていたのであれば、青色申告特別控除(65万円)が適用され節税にもなります。

因みに、紙で申告した場合は上限は55万円と電子申告と10万円の差があるので、青色申告の承認を受けていたなら、電子申告での申告をおすすめします。

10-9.電子申告をする際に必ず揃えておくものは3つ

①マイナンバーカード

マイナンバーカードには「電子証明書」という、公的な認証に必要な情報が組み込まれており、これがなければ電子申告を行うことはできません。

マイナンバーカードをまだ取得されていない方は、まずは申請を行ってください。マイナンバーカードの交付は、各自治体でできます。

相続人が複数人でも、マイナンバーカードは代表者一人が保有していれば問題ありません。

②利用者認識番号

利用者認識番号は電子申告する前に、税務署窓口や国税庁ホームページから取得できる、16桁の番号です。国税庁ホームページからe-Taxのサイトにアクセスし、「e-Taxの開始届の提出」を行えば、番号が即時発行されるので、こちらの方法がスムーズです。

ちなみに、電子申告にはマイナンバーカードを使わない「ID・パスワード方式」もありますが、こちらは準確定申告には対応しておりません。

③e-Taxのサイトから「e-Taxソフト」をダウンロードする必要があります

そのため、Windowsのパソコン、またはマイナンバーカードの読み取りに対応しているスマートフォンを用意してください。

(注)「e-Taxソフト」はMacには対応してませんので注意してください。

  (2023月10月時点)

10-10.電子申告する際に、必要な書類

①所得及び復興特別所得税の準確定申告書

通常の確定申告の様式を使います。氏名欄には、相続人本人ではなく、次のように記載してください。

(被相続人) 〇〇 〇〇(氏名)

または

(被相続人) 〇〇 〇〇(氏名) (相続人) 〇〇 〇〇(氏名)

相続人や包括受遺者が1人の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/014.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

相続人や包括受遺者が2人以上の場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/014.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

②被相続人の所得及び復興特別所得税の確定申告書付表

これは相続人ごとに税額や還付金の分け方などを記載する書類です。

紙で申告する場合、相続人が1人なら提出は不要ですが、電子申告においては相続人が1人でも必要となるので注意しましょう。

③準確定申告の確認書

相続人が2人以上いる場合に必要な書類です。

各相続人が申告内容等を確認し、署名、捺印した上で、確認書のイメージデータ(PDF形式)を作成し、e-Taxで送信します。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/fuhyo/f01-2.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

④委任状

還付金があり、かつ相続人が2名以上で、相続人の代表者がまとめて受け取る際に必要となる書類です。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/fuhyo/f01-3.pdf

※国税庁ホームページから抜粋

以上が準確定申告を電子申告で行う際に必要な基本的な提出書類です。この他に、申告内容によっては、必要書類は増えます。

11. 相続税の申告と納税

相続税の申告と納税の期限は「相続の開始を知った日の翌日から10か月以内」となっています。もし期限を過ぎてしまうと、延滞税などがかかります。

また、遺産分割には期限はありませんが、先に完了させることで相続税申告が一回ですむので、相続税申告の関係からも10か月以内に完了しておくことが望ましいでしょう。

11-1. 相続税の申告が必要なケース

①相続税の基礎控除額を超えている人・・・

相続税には基礎控除が設けられており、【3.000万円+(600万円×法定相続人の数)=基礎控除額】の計算式で求められます。遺産の総額がこの基礎控除額を超えた場合、相続税の申告が必要になります。

②配偶者控除(配偶者の税額計算)を受ける場合・・・

配偶者が相続した財産のうち、「配偶者の法定相続分の金額以下」または「1億6.000万円以下」の場合は、相続税がかかりません。

③小規模宅地等の特例を使う場合・・・

被相続人の土地などについては、「小規模宅地等の特例」を使うことで相続税評価額が最大で80%軽減されます。

これらの特例の適用を受けた場合、税額が0円だったとしても相続税の申告は必要ですので、注意しましょう。

11-2.遺産分割協議を行う

遺言書があれば遺言書通りに相続財産を分けますが、遺言書がない場合は、故人の遺産を「誰が」「どの財産を」「どのように相続するか」を法定相続人全員で「遺産分割協議」を行い、分け方を話し合います。

ただし、相続人が1人なら必要ありません。

遺産分割協議は必ず相続人全員で行う必要がありますが、必ず集まらなければいけないわけではなく、例えば電話や手紙、今ならメールなどでも協議を進めることも可能です。

注意しなくてはならないのは、どのような形でも、相続人全員が参加していないと、遺産分割協議は「無効」となってしまいます。

遺産分割協議に参加する相続人は、法律によって決められており、相続する優先順位も法律で決まっています。また、被相続人(故人)に配偶者(夫や妻)がいた場合、配偶者は必ず相続人となります。

具体的な優先順位は下図をご覧ください。(こちらは配偶者がいた場合の順位です)

①1位順位者

被相続人から見て子や孫にあたる人

相続の割合は1/2。複数人いる場合は均等に分配する。

②2位順位者

被相続人からみて、父母や祖父母にあたる人

相続の割合は1/3。

親が複数人いる場合は均等に分配する。

また、被相続人に最も近い世代のみが相続人となるため、親・祖父母ともに存命でも相続できるのは親のみとなります。

③3位順位者

被相続人からみて、兄弟や姉妹、または甥や姪。

相続の割合は1/4。

ちなみに配偶者の相続の割合は、1位順位者と相続する場合、1/2。2位順位者との場合は2/3。そして、3位順位者との場合は3/4となります。

11-3. 遺産分割協議書の作成をする

遺産分割の内容について、話し合いがまとまり相続人全員の合意が成立したら、その内容をまとめて「遺産分割協議書」を作成します。

遺産分割協議書には、相続人全員分の署名・実印の押印と、印鑑証明書が必ず必要ですので忘れないようにしましょう。

記載する内容は

1.被相続人の最後の本籍・住所、氏名と死亡日。

2.相続人全員の氏名

3.分割する相続の詳細

4.相続人全員の署名と実印の押印

以下で具体的な記載例をあげていますので、参考にしてみてください。

https://houmukyoku.moj.go.jp/shizuoka/page000001_00223.pdf

※法務局ホームページから抜粋

遺産分割協議書を作成したら、相続人各自で一通ずつ所持しておきましょう。

相続した不動産や預貯金・株式、車などの名義変更は、遺産分割協議書によって名義変更の手続きを行うことができます。

逆をいえば、この協議書がなければ相続しても名義変更手続きが行えないということです。

12. 遺留分侵害額請求とは

まず「遺留分]とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった方)の財産から法律上取得することが保証されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与、または遺贈によっても奪われることのないものです。

つまり、たとえ遺言状に1人の相続人にだけ財産を譲り渡すとあっても、一定の相続人は「遺留分」という最低限の遺産取得を主張し、請求できる権利があります。これを【遺留分侵害額請求】といいます。

12-1. 遺留分権利者(遺留分の権利を持っている相続人)

気を付けたいのは、全ての相続人に遺留分の請求が認められているわけではないということです。

遺留分がみとめられているのは

・配偶者(法律上、夫婦と認められているのに限る)

・子どもや孫といった直系卑属(孫は代襲相続人の場合)

・親や祖父母といった直系尊属

※兄弟・姉妹や甥、姪には遺留分は認められていません。

12-2. 遺留分の割合

遺留分の割合は、「法定相続割合の1/2もしくは1/3」と決められています。

例えば、法定相続財産が6.000万円だったとしたら、遺留分はその半分の3.000万円となります。

また、配偶者は常に相続の対象となります。子ども(孫)が複数人いる場合はさらに人数分均等に分けます)

【相続人】

・配偶者のみ(夫、妻)・・・1/2

・子供または孫のみ・・・1/2

・父母または祖父母のみ・・・片親1/3 両親(両祖父母)1/6

・兄弟または甥、姪のみ・・・権利なし

・配偶者と子ども(孫)・・・配偶者 1/4 子ども(孫)1人につき 1/4

・配偶者と父母(祖父母)・・・配偶者1/3 父母(祖父母) 片親1/6 両親(両祖父母)1/12

・配偶者と兄弟(甥、姪)・・・配偶者1/2 兄弟(甥、姪) 権利なし

12-3. 遺留分を計算する時に必要な財産額の計算式

遺留分を算出するためには、まず基礎となる財産額がいくらなのか計算しなくてはなりません。

計算式は下記の通りです。

【相続財産(相続開始時)】+【生前贈与(1年以内)】+【特別受益(10年以内)】-【債務(借金など)】=遺留分の基礎となる財産額

それぞれ以下で詳しく説明していきます。

・相続財産(相続開始時)

不動産などは評価方法を決め、算定する必要があり、土地だと公示価格や路線価、ビルなどの建物は固定資産税評価額に従い評価するのが一般的だとされています。

ここで注意しなければならないのは、財産の評価額は相続開始日であって、遺留分侵害額請求時ではないことを忘れないでください。

・生前贈与(相続開始前1年以内)・・・

誰に生前贈与したか関係なく、相続開始前から1年以内のものについては、遺留分の基礎となる財産に加えることができます。

ただし、被相続人と生前贈与を受けた側の両方が「その贈与によって、相続人の遺留分を侵害すると認識していた」場合は、1年以内という期間に関係なく、遺留分の基礎となる財産に加えることができます。

・特別受益(10年以内)・・・

特別受益とは、「特定の相続人だけが被相続人から受け取った利益」のことをいいます。

例えば、婚姻のための贈与、起業するための贈与、家を建てるための贈与、多額の保険金、などが特別受益に該当します。

これは、不公平を解消するためのものです。

例えば、配偶者と子ども2人のケースで、長男だけが家を建てる時の頭金として500万円の贈与を受け取っていた場合が特別受益になる可能性があります。

特別受益を遺留分の基礎となる財産に加えることができるのは、相続開始前から10年以内です。

・債務(借金など)・・・

被相続人に債務がある場合は、全額を差し引きます。ただし、被相続人が負っていた債務だけにかぎられており、葬儀代はあてはまりません。

例として、消費者金融からの債務、家賃や医療費の未払い、事業資金の借り入れなどがあります。

12-4.遺留分の計算式

「遺留分の割合」と「遺留分の基礎となる財産額」が確認できたら、その2つを掛け算すれば、遺留分の金額を算出することができます。

計算式は以下の通りです

遺留分の計算式【遺留分の基礎となる財産額】×【遺留分の割合】=遺留分

遺留分の計算式が分かったら、次は自分の遺留分が侵害されていないか確認しましょう。

相続により受け取った財産が、遺留分より少なく遺留分の侵害にあたる場合は、侵害している相続人に「遺留分侵害額請求」を行なうことができます。

例えば、遺留分が5.000万円だとすると、5.000万円相当のものを相続できているか確認し、受け取れているのであれば、請求できませんし、侵害されているのであれば請求できるということです。

12-5.遺留分計算の具体的なケース

ケース①【遺留分権利者が配偶者の妻と子ども2人(長男、次男)】

相続財産額:5.000万円

「妻に全財産の5.000万円を渡す」と書かれた遺言書がある。

また、生前贈与や特別受益、債務はないので遺留分の基礎となる財産は5.000万円となる。

このケースの場合、遺言書の通りにいけば長男と次男は遺産を受け取ることができません。

しかし、長男・次男は遺留分権利者に該当するので、遺留分侵害額請求を行なうことができます。

では、遺留分の計算式にそれぞれあてはめて遺留分がいくらになるか計算してみましょう。

ここでの遺留分の割合は、配偶者の妻(1/4)・子ども(1/4)ですが、子どもは2人なので、遺留分の割合は1/8となります。

妻(5.000万円×1/4)=1.250万円

子ども一人につき(5.000万円×1/8)=625万円

このケースで見ると、長男・次男にはそれぞれ、625万円の遺留分があるということが分かりました。

「全財産5.000万円を妻に」という遺言書があるので、625万円全額侵害されているため、妻に遺留分侵害額請求を行なうことができます。

ケース②【遺留分権利者が子ども2人(長男・長女)】

相続財産:9.000万円

  負債:500万円

生前贈与:長女に住宅購入資金のために1.500万円(10年以内)

「遺産は秘書に6.000万円、長女と次女にそれぞれ1500万円渡すものとする」といった内容の遺言書がある。

このケースの場合、債務と長女への生前贈与があるので、それらを加えて、まず遺留分の基礎となる財産を計算し算出する必要があります。

【相続財産9.000万円】+【特別受益1.500万円】-【負債500万円】=1億円

これにより、遺留分の基礎となる財産額は、1億円ということが分かりました。

では次に、遺留分を計算していきましょう。

今回は子ども2人のみなので、遺留分の割合は1/4となります。

【1億円(遺留分の基礎となる財産額)×1/4】=2.500万円(1人につき)

これで、遺留分が1人2.500万円ということが分かりましたね。

ただし、借金は法定相続分通りに相続されるので、子ども2人それぞれ250万円ずつ負担します。

これらを踏まえて、遺留分が侵害されていないか確認していきましょう。

長男は、相続で1500万円受け取ってますが、負債500万円のうち250万円負担しなければなりません。

【2.500万円(遺留分)-1.500万円(相続)+250万円(負債)】=1.250万円の遺留分の侵害が確認されました。

よって、長男は秘書に対し、1.250万円の遺留分侵害額請求をすることができます。

一方、長女の場合は生前贈与として1.500万円受け取っているため、それを遺留分額から差し引いての計算となります。

【2.500万円(遺留分)-1.500万円(相続)-1.500万円(生前贈与)+250万円(負債)】=マイナス250万円となるため、長女は秘書に対して遺留分侵害額請求をすることはできません。

12-6.代襲相続の遺留分はどうなる?

遺留分においても、法定相続分と同じで本来相続するはずだった人の権利を引き継ぎます。

しかし、民法で遺留分は「兄弟姉妹以外の相続人」と定められているので、代襲相続での遺留分の権利があるのは孫やひ孫(直系卑属)だけとなり、甥・姪が代襲相続人の場合は、遺留分は認められません。

12-7.遺留分侵害額請求は早めに行いましょう

遺留分侵害額請求はいつでもできるわけではなく、「相続開始及び、遺留分侵害を知ってから1年以内」「相続開始から10年」と期間が定められています。

この期間内に遺留分侵害額請求を行わなければ、遺留分侵害額請求の権利が消滅してしまいます。

そうならないためにも、ご自分が遺留分権利者であるなら、早めに遺留分が侵害されていないか確認し、侵害されているのであれば遺留分侵害額請求を行うようにしてください。

13.葬祭費・埋葬料の申請手続き

被相続人が亡くなってから2年以内にする手続きとして、葬祭費・埋葬料・高額医療費の申請があります。

自治体によりその金額は異なりますが、被相続人が国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者だった場合、3〜7万円の葬祭費が支給されます。

また、被相続人が会社員で協会けんぽなどの健康保険に加入していた場合は、一律5万円の埋葬料が支給されます。

気を付けたいのが、葬祭費・埋葬料ともそれぞれに請求期限があるということです。

・葬祭費は「葬儀をおこなった日の翌日から2年」

・埋葬料は「亡くなった日から2年」

そのため、それぞれ健康保険の資格喪失届を提出するときに、一緒に申請手続きを行うことをおすすめします。

14. 高額医療費の還付の申請手続き

高額医療制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月(1日から末日まで)で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度のことです。

これは、本人が亡くなった後も請求することができますので、医療費にかかった領収書はなくさず保管しておきましょう。

ただし、相続人が相続放棄していた場合は受け取れないこともあります。

15. 生命保険の請求

こちらは「14日以内にすべき手続き」にもお伝えしましたが、生命保険の保険金請求権は、被相続人が亡くなってから3年と期限があります。

被相続人が契約していた生命保険会社に死亡した旨を連絡し、契約内容を確認して必要書類を提出します。

生命保険は受取人の固有財産となるため、他の相続人に連絡する必要はなく、受取人だけで手続きして問題ありません。

期限は3年ではありますが、今後の生活など、状況によっては早めに請求することをおすすめします。

16. 相続登記(令和6年4月から義務化)

令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されます。

・相続(遺言も含む)によって、不動産を取得した相続人はその所有権の取得を知った翌日から3年以内に相続登記の申請をしなくてはなりません。

・遺産分割が成立した場合は、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記をしなければなりません。

上記のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。

また、令和6年4月1日より以前に相続が開始している場合も、3年の猶予期間はありますが、義務化の対象です。

相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先など

法務局ホームページから抜粋

17. 遺族年金の受給申請

遺族年金は国民年金、厚生年金の被保険者が死亡したときに、遺族が受け取ることができる年金のことをいい、被相続人の遺族の生活の保証を目的としています。

遺族年金の受給申請の期限は5年以内となっていますが、なるべく早めに申請することをおすすめします。

18. 未支給年金の請求

未支給年金とは、年金給付の受給者が死亡したときに、まだうけとっていない年金や、亡くなった日より後に振り込みされた年金のうち、亡くなった月分までの年金について、未支給年金としてその方と生計を同じくしていた遺族が受け取れるものをいいます。

提出先は、年金事務所または街角の年金相談センターです。

こちらも期限は5年以内ですので、早めの提出をおすすめします。

未支給年金を受け取れる遺族図

・提出方法

・提出の際の注意点など

※日本年金機構HP「年金を受けている方がなくなったとき」から抜粋

19. 知っておくと便利な制度と免税措置

19‐1. 法定相続情報証明制度

法定相続情報証明制度とは、相続人が法務局(登記所)に戸籍謄本等の必要書類と法定相続情報一覧図を作成、提出し登記官が内容を確認した上で、法定相続人が誰なのかを一覧にして証明してくれる制度のことをいいます。

この制度は2017年5月から始まり、法定相続情報証明制度を利用することで、相続手続きを行う各種機関窓口に何度も出し直す必要がなくなりました。

また、これは無料で必要な枚数だけ交付してくれますし、保管期限中(5年間)に再交付ができます。

一覧図の写しが交付されるまで2~7日程かかるとされており、被相続人の戸籍が複数の自治体にあったり、相続関係が複雑だった場合、準備に時間を要することもあるため、なるべく余裕をもって始めることをおすすめします。

法定相続情報証明制度の詳しいことはこちらをご覧ください

法定相続情報証明制度について

法定相続情報証明制度の手続きの流れ

※法務局HPから抜粋

19‐2. 相続土地国庫帰属制度

この制度は令和5年4月27日から開始され、土地を相続したものの「遠方のため、利用する予定がない」「周りに迷惑がかかるから管理が必要だけど経済的負担が大きい・・・」などの理由で相続した土地を手放したいといったとき、国にその土地を引き渡す制度のことをいいます。これは誰でも申請できるわけではありません。

申請ができるのは、相続や遺贈で土地を取得した相続人です。制度開始前(令和5年4月27日)に相続した土地も申請が可能なほか、兄弟などといった複数人で相続した共同所有した土地でも申請することができます。

その他に、どんな土地でも引き渡せるわけではなく、いくつか要件もあり、土地によって発生する費用も異なります。

相続土地国庫帰属制度の詳しい内容はこちらをご覧ください

相続土地国庫帰属制度について

※法務省HP抜粋

19‐3. 相続登記の登録免許税の免税措置

これは平成30年の税制改正により、相続による土地の所有権移転の登記について、本来なら納めなくてはならない登録免許税に、期限付きの免税措置が設けられました。この措置は、いま国が抱えてる問題の一つ「所有者不明土地問題」を解消し、免税措置をすることにより、相続登記を促進させる期待もあります。

当初の期限は、令和3年3月31日まででしたが、令和4年度の税制改正により、令和7年(2025年)3月31日まで延長されました。

さらに、不動産の価額が100万円以下の土地にかかる登録免許税の免税措置の対象が全国に拡大されました。

相続登記の登録免許税の免税措置の詳しい内容、申請書の記載例などはこちらをご覧ください

※法務局HP抜粋

タイトルとURLをコピーしました